2012年07月06日

このブログが本になります

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今月のライブのお知らせ

マサ拓Z(吉田拓郎cover)
7月27日(金)秋葉原CLUB GOODMAN
詳細はこちら
http://clubgoodman.com/

と昨日の日記。
http://inufun.sblo.jp/archives/20120705-1.html

どうぞよろしく。

 ※ ※ ※

新刊のゲラが束で届いた。
発売日に間に合わすためには、数日以内に赤を入れて戻さなければならない。

本当に出るのか……。

漫画家になってうん十年。
いつの間にか著作は五十冊を越え、一冊の本に一喜一憂することは少なくなった。
でも今度の本は、今までと違う意味を持っている。
初めての単行本のときよりも緊張している。
嬉しさはない。ただ身が引き締まるだけだ。

この気持ちを正しく伝えるためには、その本の「前書き」を転載するのが有効だと思う。

以下、その抜粋。

   ………………………………………………
 
 宮城県東松島市。東日本大震災の被災地の一つである。
 その地で何度か、ボランティア作業をすることになり、そのとき見たり聞いたりしたことをブログに書いた。
 仮にも僕は作家だし、それを書くのは「体験した者の役割り」だと思ったから。
 読者の方からは多くの応援や感想をいただいた。その地に縁のある方から「私の代わりにやってくれてありがとうございます」という有難い声もいただいた。
 それでブログの役割りは終えるはずであった。どこかの、誰かの、何かの、参考になることもあるだろう。そう思うことで充分だったのだ。

 そんなある日のこと。編集者から一本の電話がかかってきた。
「ボランティア日記を本にしませんか?」
「はい?」
 予想外の申し出に固まった僕の耳には、続く編集者の言葉は半分も聴こえてこない。
 本になれば、より多くの人の目に触れることになるだろう。どこかの誰かの何かの参考になるなら、その機会が増えるのはいいことだ。
 だが僕の気は進まなかった。
 日々流れて行くブログと違い、本にはテーマが必要となる(もっと軽く、色といってもいいかもしれない)。
 震災後、いくつもの関連書籍が出版された。そのそれぞれにはもちろんそれ(テーマor色)がある。
「頑張ろう日本」がある。「あの日の記録」もある。「絆」だってある。「何をなすべきか」的なものも。
 そういう本に比べて、僕の文章は僕個人によりかかりすぎていた。

 編集者はそれでもいいと言った。「キクニという色があるじゃないですか」
 それは他人から見た場合だ。僕にはその色は〈無色〉を意味する。
 色がなければ、本の体裁が決まらない。表紙もタイトルも何ひとつ……。
 試しにブログの内容を一行で表してみた。
 
 宮城県東松島市における、とある漫画家のボランティア記録。

 これで間違ってはいないはずだ。誤った単語は一つも使っていない。だが文字列としてそれを眺めた場合、どうにも座りの悪さを感じてしまうのだ。
 原因は判っている。前記の表現には、僕の気分的なもの(或いは空気感というもの)が、一切含まれていないからだ。

 編集者との打ち合わせでも話はそのことに及び、色々と話し合ってみたが、本のイメージはやっぱりさっぱり見えて来なかった。

 そんなとき、僕の口から言葉がもれた。
「仲間がいなかったら、きっとボランティアには行ってないだろうなあ」
「どういうことですか?」と編集者が訊いてきたので、正直なところを話した。

 今までにボランティアなんて一度もしたこともない。しようと思ったこともなかった。阪神淡路大震災も新潟沖地震もいつもどこか遠くの出来事だった。もちろん今回の震災もそうだ。東北に馴染みの土地はないし、近しい知り合いだって一人もいない。いつものように、いくらかの募金をすることで(僕の中では)解決する話だったのだろう。
 だけど、数年前に出来た友だちの中にそうじゃないヤツがいた。大阪在住と大阪出身の彼らは阪神淡路のときにボランティアをした経験を持っていた。彼らは今回もすぐに動いた。大阪と東京から、車に積めるだけの物資を積み、目的地も決めず、現地の様子も知らず、行けるのかどうかも判らぬまま、暴走する原発の恐怖を気にすることもなく、東北自動車道に乗った。
 たまたま始めたばかりのTwitterには現地からの彼らの声が毎日入ってきた。

 そこにはーーリアルがあった。

 ニュースは一日中報道を続けていたが、隠していることも多かった。ネットには真実が溢れていたが、それと同じぐらい嘘やデマも多かった。Twitterでも嘘か本当かどっちか判らないものが同じ速度で拡散されていた。
 そんなときに信じられたのは仲間の声だった。ここには嘘はない。だから僕はそれだけを選んでリツイート(引用して広める)した。
 そして思った。
 僕の仲間は助けを必要としている。被災地のために何かができる、なんて大それたことは思わなかったが、少なくとも彼らの手伝いにはなる。見知らぬ誰かのために動くことは難しくても、仲間のためなら動ける。そして彼らのむこうには、結果的にたくさんの人がいたのだと……。

「ハッキリした色があるじゃないですか」と編集者が言った。
 言われて気がついた。確かにそのテーマなら僕が書く意味もある(というか、僕にしか書けない)。
 本の体裁もハッキリと見えてきた。全くイメージの湧かなかったタイトルも浮かんだ。

   ………………………………………………

というわけで、この「犬ふんブログ」から、ボランティア部分を抜き出したものが本になります。



今も毎週のように東北に通っている友がいます。
震災から一年以上が経ちましたが、作業は減るどころか増えています。
また夏がきます。作業場所には冷房なんてありません。
でも彼らは笑顔を忘れず土にまみれます。

そういう仲間がたくさんいます。
そんな彼らの、ささやかな応援に、この本が役立てばいいなと願っています。

正式なタイトル、発売日などはまた後日。
本当にいいのかな? あのタイトルで……。
posted by kikuni at 10:09 | 日記